南太平洋に浮かぶ島国ツバルが、国土水没という国家存亡の危機に立ち向かうため、世界でも前例のない「デジタル国家」プロジェクトを推し進めている。
ツバルは人口およそ1万2000人、海抜の低い環礁から成る国家である。深刻化する気候危機による海面上昇で、国土全体が今後100年以内に水没する危機に瀕している。
この問題を世界に強く訴えかけたのが、2021年に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)での、当時のサイモン・コフェ外務大臣による演説であった。彼は膝まで海水に浸かりながら演壇に立ち、温室効果ガスの排出量が少ない小国が、いかに気候変動の甚大な被害を受けているかを世界に訴えかけた。
そして翌年のCOP27で、コフェ外相はツバルが世界初の「デジタル国家」になることを宣言したのである。
このデジタル化によって、たとえ物理的な国土が失われたとしても、ツバルは国家としてのアイデンティティと機能を維持し続けることが可能になる。また、国外へ移住した国民が互いにつながり、自らのルーツや文化を探求できる仮想空間を創設することで、行政サービスの提供も容易になる。さらに、ツバルの永続的なデジタル・レプリカを新たな「画定された領土」と位置づけることで、国際法上の主権を維持するための闘いを後押しする狙いもある。
「デジタル国家」プロジェクトは、主に3つの柱から構成される。第一に、124の島々をスキャンし、国土のデジタルコピーを作成する「デジタル・ツイン」。第二に、文化的に重要な事物や人々の価値観、伝承などを保存するクラウド基盤「デジタル・アーク」。そして第三に、国民がどこにいても行政サービスを受けられ、最悪の場合には政府機能そのものを仮想空間で維持するための「電子政府」である。
これは全国民の協力が不可欠な大規模プロジェクトである。国民の支持を得て、価値ある文化資産を確実に保存するため、プロジェクトチームは各地で住民との協議を重ねている。
ワークショップや協議を通じ、何をデジタル化するかは住民自身が決定する役割を担う。ある住民は伝統的なカヌー作りの技術を、また別の住民は、古くから伝わる競技で使うボール「アノ」の作り方を保存したいと提案した。実際に、葉を編んで作る伝統的な帽子「プロウ」などの3Dスキャンも行われている。
プロジェクトの運営チームは、インタビューに対し現状を次のように語った。「現在、私たちは離島のコミュニティを訪問し、プロジェクトについての説明と協議を重ねている最中です。デジタル・アークにツバルの文化や価値観を記録する際には、データを提供する人々の権利が完全に保護されること、そしてツバル自身がそのデータを管理し、プラットフォームに対する主権を維持することが極めて重要だと考えています。」