この記事は SciDev.Net の報道(CC BY 2.0)をもとにした日本語訳である。
米州地域で、麻しん(はしか)の症例数が過去20年以上で最多を記録しており、各国に対してワクチン接種と監視体制の強化が求められている。
専門家らによると、低いワクチン接種率とFIFAワールドカップ期間中の活発な人の移動が重なったことが、この病気の再流行を後押しした。麻しんは感染力が非常に強く、主に空気感染によって広がり、子どもがかかりやすい特徴がある。
麻しんはワクチンで予防できる病気だが、米州地域における予防接種率は、流行を防ぐために必要とされる水準に達していない。
世界保健機関(WHO)の米州地域事務局であるパンアメリカン保健機関(PAHO)によると、2026年、米州では過去22年間で最多となる麻しんの確定症例が報告されている。1月から8月までの報告症例数は5万1000件を超え、2025年通年の確定症例数1万5152件の約3倍に達した。米州は2025年に、麻しんの「排除状態」を達成しているとの認定を失っている。
PAHOは8月に出した勧告の中で、麻しんに関連する公衆衛生上のリスクは「極めて高い」と指摘し、域内各国にワクチン接種、疫学監視、そして集団発生への迅速な対応体制を強化するよう強く促した。
PAHOで包括的予防接種特別プログラムの責任者を務めるダニエル・サラス氏は、「麻しん対策に油断は許されない。集団発生が起きるたびに、早急に埋めるべき免疫の空白地帯が明らかになる」と語った。
PAHOによれば、症例数はグアテマラ、メキシコ、米国、ペルーで特に多く、この4カ国だけで今年米州で報告された全症例の95%を占めている。米国疾病対策センター(CDC)が9月18日に発表した最新情報によると、米国内では今年に入ってから39件の新たな集団発生があり、9月中旬時点での確定症例は3471件に上る。
公衆衛生の専門家らは、今回の再流行の主な原因はワクチン接種率の低下にあると指摘する。さらに、6月から7月にかけてメキシコ、米国、カナダで共催されたワールドカップのために、多くの人々が国境を越えて移動したことが、状況を悪化させたとみられている。
ブラジル・パラナ連邦大学公衆衛生学部のビアンカ・デ・オリベイラ・カタ・プレタ教授は、「これらの要因の組み合わせがウイルスのまん延に好都合な条件を作り出し、現在の状況につながったと考えられる」と分析する。麻しんは人間が感染する病気の中で最も感染力が強いものの一つで、1人の感染者から12人から18人にうつる可能性があるとされている。カタ・プレタ教授は、「国際的な渡航や大規模イベントに伴う人の移動の活発化は、国内および国家間でウイルスのまん延を助長する要因となり得る」と付け加えた。
PAHOは、麻しんの感染が続いている全ての国で状況を綿密に監視している。また、影響を受けている国々が監視体制を強化し、症例を早期に発見して迅速に対応できるよう支援するとともに、ワクチン接種率の格差解消に取り組んでいる。
PAHOの報告書によれば、今年米州で報告された麻しん患者の約4分の3(73%)は、ワクチン未接種者であった。残りの患者の多くは、接種歴が不明か、情報が得られなかった。報告書はまた、米州のほとんどの国と地域で、麻しんの流行を防ぐために必要な接種率95%を下回る状態が続いていると指摘する。地域全体で、必要とされる2回のMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんの混合ワクチン)の接種を完了しているのは人口の85%にとどまっている。
カタ・プレタ教授は、ワクチン接種率が低下した背景には、医療へのアクセスの問題、ワクチンへの抵抗感の広がり、病気のリスクに対する認識不足など、複数の要因が考えられるとみている。そして、「低い接種率という課題に取り組む戦略を立てるには、まず国ごとに接種率が伸び悩む理由を理解することが重要だ」と強調した。
麻しんは、感染した人が呼吸や咳、くしゃみをした際に放出されるウイルスを含む空気や飛沫によって感染が広がる。症状には高熱、咳、鼻水、結膜炎、発疹などがある。重症化すると肺炎や脳炎、失明といった合併症を引き起こし、死に至るケースもある。
ブラジル予防接種協会の副会長で、小児感染症の専門家でもあるレナト・クフリ氏は、「ワクチン接種は、麻しんを予防し、そのまん延を食い止める最も効果的な手段だ」と述べる。「国際的な保健機関は、感染拡大を防ぐために、人口の少なくとも95%がワクチン接種を完了することを推奨している」。これは、いわゆる「集団免疫」を獲得するために必要な水準である。集団免疫とは、人口の大部分が免疫を持つことで、感染症が広がりにくくなる状態を指す。
クフリ氏は、高い接種率を維持することの重要性は、ブラジルの例が示していると考える。ブラジルでは2026年の最初の28週間で15件の麻しん症例が報告されたが、全て国外からの「輸入症例」だった。クフリ氏によれば、これは想定内のことだという。「人々は旅行し、感染したまま帰国することもある。しかし重要なのは、これらの症例がたとえ二次感染者を出したとしても、大規模な流行に至る前に制御できたことだ」。クフリ氏は、特に近隣諸国の感染状況が悪化している際には、高いワクチン接種率を維持し、輸入症例を早期に発見するための積極的な監視体制を続けることが不可欠だと強調している。