モルディブが、世界保健機関(WHO)の東南アジア地域で唯一、国連が掲げる非感染性疾患ひかんせんせいしっかん(NCDs)による早期死亡の削減さくげん目標を達成した。非感染性疾患ひかんせんせいしっかんには、心血管疾患しんけっかんしっかん慢性呼吸器疾患まんせいこきゅうきしっかん、がん、糖尿病などが含まれる。

WHOによると、世界的に全死亡者数のおよそ4分の3を非感染性疾患ひかんせんせいしっかんが占めており、数百万人が70歳未満で早世そうせいしている。こうした早期死亡の80%以上は、低・中所得国で発生している。

公衆衛生こうしゅうえいせいの専門家によれば、モルディブの成功の中心には、デジタル接続の強化、医療人材の能力向上、そして予防医療への投資があった。このアプローチは、他の小島嶼開発途上国しょうとうしょかいはつとじょうこく(SIDS)が目標達成の軌道きどうに乗る助けになると専門家は指摘している。

特に太平洋やカリブ海地域の小島嶼開発途上国しょうとうしょかいはつとじょうこくの一部では、運動不足のライフスタイルや輸入加工食品の消費が増加したことにより、肥満と非感染性疾患ひかんせんせいしっかん罹患率りかんりつが世界で最も高い水準にある。

これらの国の多くは、2030年までに30歳から70歳までの人口における主要4つの非感染性疾患ひかんせんせいしっかんによる早期死亡を3分の1削減さくげんするという、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」のターゲット達成にはほど遠い状況にある。

WHOによると、インド洋に位置するモルディブがこの目標を4年早く達成できた主な要因は、デジタル技術に重点を置いたプライマリ・ヘルスケア(基礎的な保健医療)モデルにあった。WHOが支援したこのモデルは、まずファー環礁かんしょうで試験的に導入された。この小さな環礁かんしょうは23の島や小島からなるが、人が住んでいるのはそのうち5島のみである。

モルディブ保健・家族・福祉省が運営するファー環礁かんしょう病院の地域保健コーディネーター、シュアイブ・イスマイル氏は、「このプログラムの利点は、非感染性疾患ひかんせんせいしっかんの予防面に焦点を当てていることです」と語る。「登録された住民をスクリーニング(ふるい分け検査)し、非感染性疾患ひかんせんせいしっかんを早期に発見することで、病気が合併症がっぺいしょうや死に至る段階に進む前に治療を提供できます」。

モルディブNCDアライアンスの共同設立者で会長のアブドゥル・マリク氏によると、この試験的プログラムでは、ワクチン接種やリプロダクティブ・ヘルス(せい生殖せいしょくに関する健康)のために既に確立されていた統合健康情報システムを活用し、成人を登録して非感染性疾患ひかんせんせいしっかんのリスク因子をスクリーニングしたという。

このデジタル化されたシステムは、その後の経過観察や予防的介入も支援し、島々を越えたデジタルの紹介状や医療記録へのアクセスを可能にしたと同氏は述べた。「登録率は93%を超えました」とマリク氏は語る。「モルディブのほぼすべての島で5Gインターネット接続率が100%に近かったことが成功の要因です」。また、健康的なライフスタイルを推進するために、市民社会や島のコミュニティを巻き込むことも非常に重要だったと付け加えた。

ファー環礁かんしょうの首都ニランドホーにある中等学校、ファー環礁かんしょう教育センターのアブドゥラ・アハメド校長は、このプログラムによって、生徒やその保護者、学校職員の間で非感染性疾患ひかんせんせいしっかんへの意識、スクリーニング、予防、そして健康的な生活習慣の実践が向上したと語る。「職員の中には、スクリーニングを受けて、高血圧や高コレステロール、糖尿病の境界線上にいることが分かった者もいます」とアハメド氏は言う。「それを知って以来、彼らは積極的に運動し、体重管理のために何をどれだけ食べるかを意識するようになりました。また、がん検診と啓発けいはつ活動の後、特定のがんのリスクを高めるビンロウの実を食べるのをやめた人もいます」。

ビンロウ(またはアレカヤシ)の実は、モルディブの多くの人々が日常的に使用している。WHOの科学者たちは、これがヒトにおいてはつがんせいを持つことを確認している。アハメド氏によると、同校の生徒たちは、ココヤシやパンノキなどを育てたり、水耕栽培すいこうさいばいでハーブを栽培したりすることを通して、健康的な食事や病気の予防について実践的に学んでいるという。

ファー環礁かんしょうでの成功を受け、このモデルは現在、政府による医療人材とインフラへの投資に支えられ、他の環礁かんしょうにも拡大されている。WHO西太平洋地域事務局によると、このモデルは同様の医療課題に直面する他の小島嶼開発途上国しょうとうしょかいはつとじょうこくのひながたとなり得るが、そのアプローチはそれぞれの状況に合わせて調整する必要があるという。この地域の島嶼とうしょコミュニティは孤立していることが多く、交通手段が限られ、医療人材不足や予防医療への資金不足といった問題を抱えている。また、多くの小島嶼開発途上国しょうとうしょかいはつとじょうこくは気候変動や食料不安からの圧力の高まりにも直面している。

ニューサウスウェールズ大学のロヒナ・ジョシ氏は、「デジタルヘルスは、慢性疾患まんせいしっかんの早期発見と管理、患者中心の継続的なケア、そして地理的な障壁しょうへきに関わらず患者がタイムリーなケアを受けられるようにするために、保健システムを強化できます」と述べる。しかし同氏は、デジタルヘルスが早期死亡の削減さくげんに貢献するためには、十分な訓練を受けた人材、必須医薬品へのアクセス、そして交通、電力、インターネットといったインフラが必要だと注意をうながす。

WHOが公表している太平洋島嶼とうしょ国8カ国のデータは、早期死亡を3分の1削減さくげんするという目標に向けた進捗しんちょくが限定的であることを示唆しさしている。30歳から70歳までに主要4つの非感染性疾患ひかんせんせいしっかんで死亡する確率は、パプアニューギニアが2015年の30.9%から2021年には28.5%へと最も大きく減少したものの、他の国での減少幅は小さい。

公衆衛生こうしゅうえいせいの専門家らは、非感染性疾患ひかんせんせいしっかんの負担を軽減するためには予防医療への投資が不可欠だと強調する。医学雑誌「ランセット」に掲載された論文によると、世界全体で非感染性疾患ひかんせんせいしっかんに関する目標を達成するには、2023年から2030年の間に1400億米ドルの新規支出が必要になるという。しかし著者らは、これにより3900万人の死亡を防ぎ、2兆7000億米ドルの純経済効果を生み出すことができ、その利益は費用を19対1の割合で上回うわまわると指摘している。

モルディブは目標を達成したが、安心はできない。WHOによると、非感染性疾患ひかんせんせいしっかんは依然として同国の罹患りかんと死亡の主な原因であり、全死亡者数のおよそ84%を占めている。前出のマリク氏は、「今後数十年で、高齢化に伴い非感染性疾患ひかんせんせいしっかん関連の死亡はさらに増加するでしょう」と予測する。

WHOは、2030年の非感染性疾患ひかんせんせいしっかん削減さくげん目標を達成するためには、世界的にプライマリ・ヘルスケアの統合を強化し、たばこやアルコールの規制といったリスク因子の削減さくげんが必要だと述べている。