ホルムズ海峡を巡めぐる対立たいりつは、金融きんゆうインフラを巡めぐる広範こうはんな争あらそいと「相互依存そうごいぞんの兵器化へいきか」という側面そくめんを浮うき彫ぼりにしている。

9月14日月曜日、イランと湾岸わんがん諸国しょこくとの会談かいだんが延期えんきされたことで、中東ちゅうとう外交がいこうは停滞ていたいの兆候ちょうこうを見みせた。これと同時どうじに、地域ちいきで最もっとも重要じゅうような二つの原油輸送げんゆゆそうルート周辺しゅうへんでの攻撃こうげきが、世界せかいのエネルギー供給きょうきゅうに対たいする懸念けねんを深ふかめている。週末にかけて事態じたいはエスカレートしていたのだ。世界最大せかいさいだいの原油輸出国げんゆゆしゅつこくであるサウジアラビアでは、フーシ派はによる攻撃こうげきが、ホルムズ海峡かいきょうを迂回うかいして国内こくないを横断おうだんする全長ぜんちょう1,200キロメートルの東西とうざいパイプラインを閉鎖へいささせた。この閉鎖へいさは、原油価格げんゆかかくを3%以上いじょう押おし上あげる要因よういんとなった。

その一方いっぽうで、ホルムズ海峡かいきょうそのものも依然いぜんとして危険きけんに晒さらされていた。イギリスの海上かいじょう警備けいび機関きかんUKMTOは9月13日日曜日、海峡かいきょうを航行中こうこうちゅうの船舶せんぱくが投射物とうしゃぶつによる攻撃こうげきを受うけ、火災かさいが発生はっせいし乗組員のりくみいんが避難ひなんを余儀よぎなくされたと発表はっぴょうした。パイプラインの閉鎖へいさとホルムズ海峡かいきょうでのこの事件じけんは、主要しゅような水路すいろとその迂回うかいルート双方そうほうの脆弱性ぜいじゃくせいを浮うき彫ぼりにした。

安全保障上あんぜんほしょうじょうの緊張きんちょうの高たかまりと並行へいこうして、ワシントンからの経済的けいざいてき圧力あつりょくが再燃さいねんした。8月7日、米財務省べいざいむしょう外国資産管理局がいこくしさんかんりきょく(OFAC)は、湾岸わんがん諸国しょこくとアジア間かんで活動かつどうする金融きんゆうネットワークに対たいし制裁せいさいを科かした。このネットワークは、イランの「影かげの銀行ぎんこうシステム(シャドーバンキング)」が数億すうおくドルを不正ふせいに送金そうきんするのを支援しえんしたとされている。制裁対象せいさいたいしょうには、ドバイの二つの両替商りょうがえしょう、金融仲介業者きんゆうちゅうかいぎょうしゃ、イラン系銀行けいぎんこうと関係かんけいするフロント企業きぎょう、香港ほんこんとシンガポールに拠点きょてんを置おくペーパーカンパニーなどが含ふくまれた。

その2週間強しゅうかんきょう後の8月24日、財務長官ざいむちょうかんは「経済的けいざいてき追放ついほう作戦さくせん」の開始かいしを発表はっぴょうし、数ヶ月間すうかげつかん軍事的ぐんじてき緊張きんちょうが主おもだった状況じょうきょうから金融きんゆう圧力あつりょくへと回帰かいきする動うごきを示しめした。2018年ねんの米国べいこくの核合意かくごうい離脱後りだつごに課かされた広範こうはんな制裁せいさいとは異ことなり、この新あらたな作戦さくせんは、イランが制約せいやくにもかかわらず抜け穴ぬけあなを利用りようし、経済けいざいの一部いちぶを機能きのうさせ続つづけるのを助たすけたとされる事業体じぎょうたいを標的ひょうてきとしている。8月7日の指定していと8月24日の作戦さくせんを合あわせて見みると、これは広範こうはんな懲罰的措置ちょうばつてきそちから、制裁下せいさいかでの貿易ぼうえき継続けいぞくを可能かのうにする金融きんゆう経路けいろのより厳格げんかくな管理かんりへと、戦略せんりゃくの転換てんかんを示しめしている。したがって、この作戦さくせんは従来じゅうらいの制裁せいさい強化きょうかというよりも、制裁体制せいさいたいせいにおける隙間すきまを埋うめる試こころみであると言える。

世間せけんの注目ちゅうもくは、明白めいはくなチョークポイントとしてのホルムズ海峡かいきょうに集あつまっているが、金融きんゆう制裁せいさいは議論ぎろんの周辺しゅうへんにとどまっていた。しかし、金融きんゆうネットワークこそが、より決定けってい的てきな圧力点あつりょくてんとなり得える。ホルムズ海峡かいきょうは「相互依存そうごいぞんの兵器化へいきか」の象徴しょうちょうとなっているが、より目めに見みえにくいチョークポイント、つまりイランが資金しきんを動うごかし貿易ぼうえきを維持いじするためのシステムこそが、最もっとも重要じゅうようなのかもしれない。

イランに対たいする金融きんゆう制裁せいさいの歴史れきしは、1979年ねん11月14日に始はじまった。これは、テヘランの米国べいこく大使館占拠たいしかんせんきょから10日後、そしてイラン政府せいふが米国べいこく機関きかんからの資産しさん引ひき出だし意向いこうを発表はっぴょうした同日どうじつである。ジミー・カーター大統領だいとうりょうは、大統領令だいとうりょうれい12170号ごうに基もとづき、米国べいこく管轄下かんかつかにあるイラン政府せいふおよび中央銀行ちゅうおうぎんこうの資産凍結しさんとうけつを命めいじ、この措置そちをヨーロッパを含ふくむ米国べいこく銀行ぎんこうの全ぜん海外かいがい支店してんおよび子会社こがいしゃに保有ほゆうされる残高ざんだかにまで拡大かくだいした。この危機ききは、約やく1年半後ねんはんごの1981年ねん1月20日、「アルジェ合意ごうい」によって終結しゅうけつした。この交渉こうしょうでは、凍結とうけつされたイラン資金しきんの扱あつかいも含ふくまれていた。

1979年ねんのこの措置そちは、米国べいこく管轄下かんかつかの資産しさんを管理かんりする比較的ひかくてき従来型じゅうらいがたの制裁せいさいであったものの、金融きんゆうネットワークが持もち得える影響力えいきょうりょくの潜在的せんざいてき範囲はんいを明確めいかくにした。しかし必然的ひつぜんてきに、数十年以内すうじゅうねんいないに、制裁せいさいの対象たいしょうはドルの流ながれそのものから、それが移転いてんされる経路けいろへと移行いこうしていった。この転換てんかんの中心ちゅうしんにあったのが、国際銀行間通信こくさいぎんこうかんつうしんを標準化ひょうじゅんかするため、1973年ねんにベルギーで15カ国こくの239銀行ぎんこうによって設立せつりつされた協同組合きょうどうくみあいSWIFTである。SWIFTは銀行ぎんこうではなく、決済けっさいそのものを実行じっこうするわけではないが、仲介業者ちゅうかいぎょうしゃが決済けっさいを行おこなうための指示しじを伝送でんそうする。その中心性ちゅうしんせいの高たかまりは、国際決済こくさいけっさいインフラの不可欠ふかけつな一部いちぶとなり、そこから利用者りようしゃを排除はいじょすることが大おおきな影響力えいきょうりょくを生うみ出だし得えるようになった。

2019年ねんにヘンリー・ファレルとエイブラハム・ニューマンが提唱ていしょうした「相互依存そうごいぞんの兵器化へいきか」は、このメカニズムを解明かいめいする。グローバル経済けいざいネットワークが少数しょうすうの「ノード」(結節点けっせつてん)に集中しゅうちゅうする傾向けいこうがあり、そのノードに対たいし実効的じっこうてきな管轄権かんかつけんを持もつ国家こっかが、その中心性ちゅうしんせいを二つの能力のうりょくに転換てんかんできることを示しめす。一つは、ノードを通過つうかする流ながれを監視かんしする「パノプティコン効果こうか」。もう一つは、それらを意図的いとてきに遮断しゃだんする「チョークポイント効果こうか」である。

SWIFTの場合ばあい、これらの能力のうりょくは異ことなる経路けいろで発展はってんしてきた。SWIFTはベルギー法ほうおよびベルギー国立銀行こくりつぎんこうの監督下かんとくかにある。しかし、その運営うんえいセンターの一ひとつが米国べいこくに所在しょざいしている。

2001年ねん9月11日の同時多発どうじたはつテロ以降いこう、米財務省べいざいむしょうは「テロ資金追跡しきんついせきプログラム」を通とおじて、SWIFTの米国べいこくサイトに保管ほかんされているメッセージへのアクセスを獲得かくとくし、パノプティコン効果こうかを具現化ぐげんかした。2006年ねんにこのプログラムが公表こうひょうされた後、データ保護ほごに関かんする欧州おうしゅうの異論いろんを受うけ、交渉こうしょう枠組わくぐみが設もうけられた。2010年ねん以降いこう、欧州連合おうしゅうれんごう(EU)から米国べいこくへの金融きんゆうメッセージングデータの移転いてんは、米国べいこくの情報要請じょうほうようせいを制限せいげんする合意ごういによって規定きていされている。

対照的たいしょうてきに、排除はいじょ能力のうりょく、すなわちチョークポイント効果こうかは2012年ねんに現あらわれた。欧州連合理事会おうしゅうれんごうりじかいの決定けっていにより、SWIFTを含ふくむ、資産凍結しさんとうけつの対象たいしょうとなっているイランの金融機関きんゆうきかんに代かわって、専門せんもんの金融きんゆうメッセージングサービスを提供ていきょうする事業者じぎょうしゃの活動かつどうが禁止きんしされたのである。同日どうじつ、SWIFTはサービス停止ていしを指示しじされたと発表はっぴょうし、その年としの3月17日にサービスは遮断しゃだんされた。この措置そちは、形式上けいしきじょうは欧州おうしゅうによるものだったが、強つよい米国べいこくの圧力あつりょくを受うけて採択さいたくされた。実際じっさいには、米国べいこくは直接的ちょくせつてきな接続せつぞく遮断しゃだんを課かすことなく、ネットワーク内ないでの自みずらの立場たちばを利用りようして、別べつの管轄区域かんかつくいきの行動こうどうを誘導ゆうどうしたのである。

しかし、最もっとも重要じゅうような事例じれいは、2018年ねん5月に米国べいこくが「包括的共同行動計画ほうかつてききょうどうこうどうけいかく(JCPOA)」、いわゆる核合意かくごういから離脱りだつした後、欧州おうしゅうと米国べいこくの方針ほうしんが公然こうぜんと乖離かいりした際さいに生しょうじた。8月には、欧州連合おうしゅうれんごう(EU)が域内いきないの事業者じぎょうしゃに対たいし、米国べいこくの域外いきがい制裁せいさいへの遵守じゅんしゅを禁きんじる改訂かいていされた「遮断規則しゃだんきそく(Blocking Regulation)」が発効はっこうした。その一方いっぽうで、当時とうじのスティーブン・ムニューシン財務長官ざいむちょうかんは、SWIFTが制裁対象機関せいさいたいしょうきかんへのサービス提供ていきょうを継続けいぞくするならば、SWIFT自体じたいも制裁対象せいさいたいしょうになり得えると公おおやけに警告けいこくした。

それにもかかわらず、米国べいこくの第だい2弾だん制裁せいさいが再発動さいはつどうされた11月5日、SWIFTは世界せかい金融きんゆうシステムの安定性あんていせいを理由りゆうに、一部いちぶのイラン系銀行けいぎんこうへのアクセスを停止ていしした。この際さい、米国べいこくの制裁せいさいには言及げんきゅうしなかったが、欧州委員会おうしゅういいんかいはこの決定けっていを「遺憾いかん」と表明ひょうめいした。これにより、排除はいじょは2012年ねんのように欧州おうしゅうの立場たちばと一致いっちするものではなく、むしろそれに反はんするものとなった。欧州おうしゅうが2019年ねんに設立せつりつし、単一たんいつの取引とりひき後に2023年ねんに清算せいさんされた「貿易取引支援機関ぼうえきとりひきしえんきかん(INSTEX)」による独立どくりつした経路けいろを構築こうちくしようとする試こころみは、意図いととSWIFTに代かわる実行可能じっこうかのうな代替手段だいたいしゅだんを創出そうしゅつする能力のうりょくとの隔へだたたりを露呈ろていするに過すぎなかった。

パノプティコン効果こうかとチョークポイント効果こうかが今日こんにちにおいても依然いぜんとして機能きのうしていることは、最近さいきんの8月7日付づけの指定していによって示しめされている。冒頭ぼうとうに述のべられたネットワークを再構築さいこうちくするため、米財務省べいざいむしょうは関与かんよした企業きぎょうだけでなく、その事業じぎょうを運営うんえいする個人こじんをも特定とくていした。これは長期ちょうきにわたる情報収集じょうほうしゅうしゅうの証左しょうさである。その上うえで、外国金融機関がいこくきんゆうきかんが米国べいこくのコルレス口座コルレスこうざへのアクセスを失うしなうリスクがあることを警告けいこくし、間接的かんせつてきに「過剰かじょう遵守じゅんしゅ(オーバーコンプライアンス)」という現象げんしょうも助長じょちょうしている。

近月きんげつ、ホルムズ海峡かいきょうをチョークポイントと表現ひょうげんし、それに対し「相互依存そうごいぞんの兵器化へいきか」理論りろんを推移的すいいてきに適用てきようする記事きじが多数たすう見みられる。しかし、この解釈かいしゃくは不正確ふせいかくであるばかりか、理論りろん本来ほんらいの意味いみを希薄化きはくかさせるリスクがある。ホルムズ海峡かいきょうが世界せかいで最もっとも重要じゅうような地政学ちせいがく・経済的けいざいてきチョークポイントの一ひとつであることは疑うたがいようがないが、それは「相互依存そうごいぞんの兵器化へいきか」が顕在化けんざいかするチョークポイントとは異ことなる範疇はんちゅうに属ぞくする。

ファレルとニューマンが説明せつめいするネットワークにおけるノード(結節点けっせつてん)は、規模きぼの経済けいざいによって生しょうじる集中しゅうちゅう、つまり代替手段だいたいしゅだんが高価こうかになるような経済的けいざいてき選択せんたくの累積るいせきの結果けっかである。一方いっぽう、イランによる海峡かいきょう支配しはいは、地理的ちりてき要因よういんと、その通過つうかを阻止そしする軍事力ぐんじりょくに由来ゆらいする。

これら二つの立場たちばが、それを保持ほじする者ものに与あたえるものも大おおきく異ことなる。海峡かいきょうの支配しはいは、何なによりも通過料収入つうかりょうしゅうにゅうをもたらし、テヘランはこれを「ペルシャ湾海峡庁わんかいきょうちょう(PGSA)」を通とおじて制度化せいどかしようとしてきた。これに対たいし、決済けっさいネットワークにおける中心性ちゅうしんせいは、そこを通過つうかする資金しきんの流ながれに関かんする知識ちしきと、それに参加さんかする仲介業者ちゅうかいぎょうしゃを条件付じょうけんづける能力のうりょくをもたらす。これはまた、米国べいこくが通過料つうかりょうを不許可ふきょかとし、PGSAに制裁せいさいを科かした際さいに起おきたように、前者ぜんしゃの立場たちばが後者こうしゃによって無力化むりょくかされ得えることを説明せつめいしている。

47年間ねんかんの国際決済こくさいけっさいシステムからの排除はいじょは、イランが主要しゅような国際決済こくさいけっさいインフラに代かわるものを生うみ出だすには至いたっていない。ロシアとの間あいだで開発かいはつされた経路けいろは依然いぜんとして限定的げんていてきであり、原油輸出げんゆゆしゅつは大部分だいぶぶんが不透明ふとうめいな経路けいろを通とおじて行おこなわれている。その一部いちぶは、最近さいきんの8月7日付づけの指定していによってまさに打撃だげきを受うけている。

8月8日、イランはホルムズ海峡かいきょう再開さいかいのための6つの条件じょうけんを提示ていじした。そのうち三つは、戦争被害せんそうひがいに対たいする賠償ばいしょう、制裁せいさい解除かいじょ、凍結とうけつ資産しさんの解放かいほうといった金融面きんゆうめんに属ぞくするものである。現在げんざいまでに、6月17日付づけの覚書おぼえがきは期限切きげんぎれとなり、将来的しょうらいてきな再開さいかいに関かかわる経済的けいざいてき・軍事的ぐんじてき条件じょうけんすべてにおいて交渉こうしょうは停滞ていたいしたままだ。

米国べいこくによる圧力あつりょくの方向性ほうこうせいは継続けいぞくしそうだ。8月13日、財務長官ざいむちょうかんは前例ぜんれいのない規模きぼの新あらたな経済措置けいざいそちを示唆しさした。このツールの長期的ちょうきてきな使用しようは、代替だいたい金融きんゆう経路けいろの成長せいちょうが依然いぜんとして非常ひじょうに限定的げんていてきであるとはいえ、影響えいきょうを受うける関係者かんけいしゃが代替手段だいたいしゅだんを模索もさくするリスクを高たかめている。

結局けっきょくのところ、問題もんだいはホルムズ海峡かいきょうの支配しはいだけにとどまるものではなかった。近月きんげつ、イランが貿易ぼうえきを行おこなうための金融きんゆうネットワークこそが、強制力きょうせいりょくを持もつ手段しゅだんとして最もっとも適てきしたチョークポイントであることが、これまで以上いじょうに明確めいかくになった。この、あまり目めに見みえず、メディアで報ほうじられることも少すくないネットワークこそが、ワシントンの対たいイラン戦略せんりゃくの不可欠ふかけつな一部いちぶを形成けいせいしており、ホルムズ海峡かいきょう再開さいかいの条件じょうけんを決定的けっていてきに左右さゆうするであろう。