人生で最初の1000日とは、お母さんのおなかにいる時から、生まれて2歳の誕生日までのことです。この期間の栄養は、その人の将来にとって、とても重要です。なぜなら、3歳になるまでに子どもの脳のほとんどが作られるからです。この時期にできる体と心の基礎が弱いと、あとから教育やトレーニングにお金をかけても、効果はあまり出ません。しかし、今の社会は、人が大人になってからの結果ばかりを見て、その基礎となる子ども時代にあまり注意をしていません。
子ども時代の栄養が将来に大きな影響を与えるという証拠はたくさんあります。例えば、グアテマラという国の研究では、3歳までに栄養のいいものを食べた子どもは、そうでない子どもより大人になったときの給料が46%も高くなりました。また、ジンバブエの研究では、栄養が足りずに体の成長が遅れた子どもは、学校に通う年数が短くなり、一生で稼ぐお金も約10%低くなりました。このように、子どものときの栄養は、その人の一生を左右することがあるのです。
この問題は、その子ども一人の人生だけで終わりません。子どものときに栄養が足りなかった女の子は、大人になってお母さんになった時、自分の子どもも栄養が足りなくなる可能性が高くなります。こうして、栄養不足という悪い状態が次の世代、またその次の世代へと続いてしまうのです。では、なぜこんなに重要なことが、教育や道路を作ることと同じように大切な問題として考えられていないのでしょうか。その理由の一つは、国の発展の測り方にあります。
今、国の発展を測るために「人間開発指数(HDI)」というものがよく使われます。これは、国民の所得や教育のレベル、どのくらい長く生きるか(平均寿命)などを見るものです。しかし、これらはすべて大人になってからの結果です。将来の結果を決める子どものときの栄養という大切な基礎を見ていません。これは、建物の基礎を確かめないで、外から見た様子だけで評価するようなものです。だから、人間開発指数に子どものときの栄養も加えるべきだ、という提案がされています。多くの国はすでに必要なデータを持っているので、新しく調査をする必要はありません。
学校や病院、道路などをつくることももちろん大切です。しかし、人生最初の1000日の栄養は、それらの投資と比べるものではありません。むしろ、すべての投資を成功させるための土台なのです。どんなにすばらしい学校を作っても、栄養が足りなくて脳の発達が十分でない子どもが教室に来ても、勉強の効果は出にくいでしょう。教育や経済の機会を本当に役に立たせるために、まず子どもたちが健康に育ち、学ぶための栄養をしっかり与えることが必要なのです。