WeChatに「老趙(ラオ・ジャオ)」というアカウントがあります。アイコンはスーツを着きた、真面目まじめそうな中年ちゅうねんの男性だんせいです。そのアカウントの記事きじにはきれいな花はなの写真しゃしんや大おおきな字じが使つかわれています。そして、家族かぞくのいろいろな悩なやみに答こたえる専門家のような、真剣しんけんな書かき方かたで書かかれていました。老趙のプロフィールは、とてもすごいです。例たとえば、「30年ねん以上いじょうの経験けいけんがある親子おやこ関係かんけいの専門家」で、「家族かぞくを助たすけるために熱心ねっしんに活動かつどうしている」と書かいてあります。しかし、これは全部ぜんぶ嘘うそです。実じつは、老趙は本当ほんとうは存在そんざいしません。このアカウントを作つくったのは、スマートフォンとAIツールを上手じょうずに使つかう20代だいの若わかい女性じょせい、小尚(シャオ・シャン)さんです。そして彼女かのじょは、自分じぶんの母親ははおやと何なん年ねんもコミュニケーションがうまくいっていませんでした。

彼女かのじょがこのアカウントを作つくった理由りゆうは、母親ははおやがいつも送おくってくる記事きじにいやになっていたからです。母親ははおやからの記事きじは、「独身どくしんの女性じょせいや一人ひとり暮ぐらしは危あぶない」とか、「テイクアウトの食たべ物ものは体からだに悪わるい」など、不安ふあんにさせるものばかりでした。古ふるい世代せだいが正ただしいと考かんがえる生いき方かたをしないのは危険きけんだ、という内容ないようでした。何なん年ねんもの間あいだ、小尚さんは直接ちょくせつお母かあさんに説明せつめいしたり、反対はんたいの意見いけんを言いったりしました。長ながいメッセージも書かきました。しかし、気持きもちを分わかってもらうことはできませんでした。そこで彼女かのじょは、「魔法まほうで魔法まほうと闘たたかう」という方法ほうほうを思おもいつきました。

老趙の記事きじは、若者わかものを悪わるく言いう今いままでの記事きじとは反対はんたいでした。若者わかものを「なまけ者もの」や「わがまま」と非難ひなんしませんでした。そうではなく、親おやたちをしかる内容ないようでした。ある記事きじは、「お金かねが少すくないことや独身どくしんであることを恥はずかしいと思おもうな」と親おやたちを批判ひはんしました。また、「子こどものプライバシーを邪魔じゃまするな」「他ほかの子こどもと比くらべるな」「結婚けっこんだけが良よい将来しょうらいではない」などと親おやたちにアドバイスしました。小尚さんがこのプロジェクトについてSNSに投稿とうこうすると、たくさんの若者わかものからアイデアが集あつまりました。そして、みんなで感謝かんしゃしている読者どくしゃのふりをして、コメントを書かき込こみました。こうして、老趙が本当ほんとうに存在そんざいする、賢かしこい年上としうえの男性だんせいであるように見みせたのです。

老趙のアドバイスは、特別とくべつなものではありませんでした。「親おやは子こどものプライバシーを尊重そんちょうすべきだ」「結婚けっこんで人ひとの価値かちを決きめるべきではない」。これらは、多おおくの娘むすめたちが何なん度ども親おやに伝つたえてきたことです。では、なぜ親おやたちは娘むすめの言葉ことばではなく、老趙の言葉ことばを信しんじたのでしょうか。それは、中国ちゅうごくの多おおくの家庭かていでは、誰だれが話はなすかがとても重要じゅうようだからです。親おやから子こへ、年上としうえから若者わかものへ、という順番じゅんばんが大切たいせつにされます。老趙は、親おやたちが信しんじやすい「自信じしんがある年上としうえの男性だんせいの専門家」というイメージでした。また、記事きじの見みた目めも、親おやたちがいつもWeChatで見みている記事きじと同おなじでした。だから、中身なかみが娘むすめの意見いけんと同おなじでも、すんなり受うけ入いれられたのです。

老趙のアカウントはとても人気にんきになり、単たんなるジョークではなくなりました。親おやが子こどもと一緒いっしょに記事きじを見みるようになりました。アドバイスを求もとめる人ひともいました。あるおばあさんは、孫娘まごむすめとの関係かんけいを良よくするために助たすけを求もとめました。しかし、文句もんくを言いう母親ははおやもいました。突然とつぜん、小尚さんは、全まったく予想よそうしていなかった質問しつもんに答こたえなければならなくなりました。彼女かのじょは、「自分じぶんは責任せきにんを持もって正ただしく書かくことができるだろうか」と心配しんぱいになりました。インターネットのジョークが、知しらない人ひとたちが長年ながねんの悩なやみを話はなす場所ばしょに変かわってしまったことに、彼女かのじょは不安ふあんを感かんじたのです。