米政府が大手IT企業8社を対象にグリーンカード(永住権)の発給認定手続きを凍結した。直接的な影響は限定的との見方もあるが、この措置は、数十年規模の待機者問題を抱える米国の移民制度に、さらなる不確実性をもたらしている。
米労働省は2026年10月8日、マイクロソフト、アドビ、インフォシス、タタ・コンサルタンシー・サービシズなど8社のテクノロジー企業が関わるPERM(労働許可証)申請の処理を停止すると決定した。同省は、これらの企業に関する新規申請の受理も、保留中の申請処理も行わないとしている。
PERMは、雇用を通じて永住権取得を目指す多くの移民にとって、最初のステップとなる重要な手続きだ。特にEB-2、EB-3という専門職向けのカテゴリーで申請する場合に必要とされ、雇用主は、その職務に米国人を雇用しようと努力したことを証明しなければならない。
今回の処理停止は、連邦規則に基づき、申請に詐欺や意図的な虚偽表示があったと信じるに足る根拠がある場合に認められる措置である。
こうした政府の動きの背景には、移民政策をめぐる厳しい世論がある。政治家のJ・D・バンス氏は、専門職向けのH-1Bビザで人材を雇用する企業が「外国人契約労働者のカースト」を作り出していると非難した。H-1Bビザをめぐる論争に続き、大学が関与する別のビザプログラムへの調査も報じられており、移民政策と労働市場に関する議論は激化の一途をたどっている。このような状況は、インドのITサービス部門と米国企業との間の協力関係を徐々に損なう可能性がある。
H-1Bビザから永住権を取得するプロセスは、米国に入国し、就労者として生活し、最終的に永住権を得るという段階を踏む。インド国籍者はH-1Bビザ取得者の大部分を占めており、米国市民権・移民局(USCIS)の2024会計年度の報告書によれば、その割合は71%に上った。
ただでさえ、米国の移民制度は高コストで予測が難しくなっている。H-1Bビザは一時的な就労を許可するものだが、永住権への道は険しい。今回のPERM凍結は、一時的な居住者から永住者への移行段階に影響を与え、対象となる労働者の永住権取得をさらに遅らせる可能性がある。
この措置が企業の収益よりも個々の労働者に大きな影響を与える理由は、雇用ベースの移民申請における膨大な未処理案件(バックログ)の存在にある。シンクタンクのケイトー研究所の2023年の推計では、米国の雇用ベース永住権の待機者は約180万人で、そのうち68%にあたる約110万人がインド人だった。同研究所は、インド人申請者の待機期間が最長で134年に及ぶ可能性を指摘しており、永住権は多くの人にとって生活設計の根幹をなすだけに、新たな障害は彼らの人生を著しく混乱させる恐れがある。
一方で、インドのIT業界では構造変化も進んでいる。インド準備銀行(RBI)の調査では、海外の顧客先で働く従業員への賃金にあたる「オンサイト収益」が減少傾向にある。これは、多くの専門家を海外に派遣する従来型モデルから、国境を越えてサービスを提供するモデルへの移行を示唆している。
インドのIT・ソフトウェア産業団体Nasscomのデータによると、2025-26会計年度の業界総収益は前年比6.1%増の3150億ドルに達するなど、業界自体は成長を続けている。米国の顧客は、専門家が米国内にいなくても、インドのチームからソフトウェア開発などのサービスを購入できるため、永住権への制限が企業の収益力に与える影響は限定的かもしれない。
インドのIT企業にとって、今回のPERM凍結はビジネスモデルへの致命的な脅威というより、比較的小さな金銭的打撃にとどまる可能性がある。しかし、影響を受けるインド人専門家にとっては、極めて個人的で切実な問題だ。米国内での仕事に影響がなくとも、永住計画は後退を余儀なくされるかもしれない。
この問題は、米印関係にも影を落とす。輸入品への関税に続く熟練人材の移動制限は、両国の強固な政治的絆を支えてきた経済的統合の中核を侵食しかねない。短期的な経済的損失は最小限かもしれないが、影響を受ける人々の不安は計り知れず、米国の移民政策がグローバルな人材の流れをどう変えるかという、長期的な課題を突きつけている。