ソマリアでは、紛争ふんそう激化げきかと氏族間の対立が深まる中で、氏族主義や氏族を優先ゆうせんする政治が拡大しています。最近の調査で、この動向どうこうにTikTokが大きく関与かんよしていることが明らかになりました。

父系の血縁けつえんもとづく氏族の結束けっそくは、ソマリア社会において政治、紛争解決ふんそうかいけつ、社会参加を支える基盤きばんとなっています。植民地しょくみんち時代以前や独立後のソマリアでは、シルと呼ばれる氏族の集会を通じて統治とうちが行われ、特に紛争解決ふんそうかいけつにおいては、情報の収集・整理や不確かな情報の排除はいじょにおいて重要な役割を果たしてきました。

しかし、ソマリアの中央政府が崩壊ほうかいし、多くの国民が国外へ離散りさんして以降いこう、スマートフォンなどのデジタル機器を通じた交流や非対面でのコミュニケーションが、新しい氏族の交流形態けいたいとして現れ始めています。氏族同士を国境を越えてつなぐTikTokのようなサービスが登場したことで、従来じゅうらいの氏族統治の仕組みは機能しにくくなっています。一方で、新しいサービスを利用する若者の中には、人々の関心をきつける言葉遣いや、実況配信じっきょうはいしん、氏族内の共通の話題をたくみに使った話術わじゅつ演技えんぎで、他の氏族との対立をあおる者も出てきています。

これまでソマリ人の生活を形作ってきたのは氏族意識でした。歴史的に見ても、政治、保護、帰属きぞく意識は氏族主義によって決定されてきました。シルのような伝統的な氏族集会の場では、紛争ふんそう調停ちょうていや氏族内の問題の判断は長老ちょうろうの男性が行い、若者や女性が参加できる機会はほとんどありませんでした。

TikTokの登場により、この秩序ちつじょみだれ、これまで氏族政治で軽視けいしされてきた子供、若者、女性が、オンライン上で突然とつぜん氏族について語り始めるようになりました。実況配信じっきょうはいしんでは、氏族のはたかかげ、氏族をたたえるを読み、内輪でしか通じない言葉で視聴者に語りかけるのです。

「クランバトル」(他にSomali Great Game、Big Tribal Gameとも呼ばれる)と呼ばれる、TikTok上での氏族間の対戦形式のイベントの隆盛りゅうせいはその一例です。クランバトルは、インフルエンサーと呼ばれる各氏族出身の著名人ちょめいじんがオンライン上で対決し、優劣ゆうれつきそうゲームです。支持者を動員どういんしてたがいをそしり合い、氏族の名誉めいよをかけてデジタルコインの寄付額きふがくきそいます。長老ちょうろうが内輪の会合だけで決定していたことが、今や公然こうぜんと、世界規模きぼで、しかもビジネスとして行われているのです。

このような氏族意識を鼓舞こぶするオンラインゲームは活力かつりょくむ一方で、問題も引き起こしています。これまで無視むしされてきた人々が可視化かしかされる一方で、かつて長老ちょうろう介入かいにゅうして自制じせいうながしていた機会はうしなわれ、氏族主義が人気をはく見世物みせものしてしまいました。

信頼しんらいできる報道ほうどうによれば、集まったデジタルコインはソマリア国内での紛争ふんそう資金源しきんげんにもなっています。ソマリア北東部のラスアノドで2023年に発生した紛争ふんそうでは、クランバトルで集められたデジタルコインが両陣営じんえいの活動資金として寄付されました。このバトルを主催しゅさいしたインフルエンサー2名は、ソマリランドと、ソマリア北東部に新設しんせつされた自治州じちしゅうの出身者でした。

連日れんじつ夕方になると、アフリカのつの位置いちするソマリアや、国外に離散りさんしたソマリ人の若者たちがTikTokに集まります。彼らのお目当めあてはダンスや短い寸劇すんげきではなく、実況配信じっきょうはいしんされるクランバトルです。バトルの主役はTikTokで人気のソマリ人男性インフルエンサーですが、決して機知きちんだ楽しいショー番組ではありません。デジタル空間では、参加者は氏族外の人々をさげすむ言葉を画面しにびせかけ、氏族のほこりを寄付額できそい、敵対する氏族に対抗たいこうするための結束けっそくを呼びかけます。何千人もの観衆かんしゅうが見守る中、デジタルコインで購入されたロケットやジェット機が画面をい、人々の感情を高揚こうようさせるのです。

2025年9月下旬、二人のソマリ人インフルエンサーがTikTokでバトルを行い、終了後その模様もようはTikTokスタイルの短い動画に編集されました。多くの人がつい見てしまうTikTokの動画は中毒性ちゅうどくせいが高く、拡散かくさんされた動画は視聴者の感情をき立て、いつまでもその心をとらえ続けます。TikTokは中毒性ちゅうどくせいの高い動画で世界中の人々の心をつかみましたが、ソマリア社会では予想外の困難こんなんな問題を引き起こしています。デジタル技術をもちいたこのサービスも、登場当初とうしょほこりや連帯感れんたいかんを確認する場として歓迎かんげいされていました。しかし、現在は変貌へんぼうげ、何世紀にもわたって続く氏族社会を再強化さいきょうかし、ときに人々を危険きけんおとしいれる場へと変わりつつあります。

2020年当初とうしょ、TikTokはソマリア国内だけでなく、離散りさんしたソマリ人が住むケニア、エチオピア、ジブチなど、世界中に広がるソマリ人社会で人気のアプリとなりました。ソマリア国内だけでも390万人が頻繁ひんぱんに利用しており、TikTokがスマートフォンを持つ主な目的となっているほどです。

なぜTikTokなのでしょうか。TikTokはすぐれた使いやすさをち、文字が読める人も読めない人も投稿や共有が容易よういです。TikTok独自どくじの「おすすめページ」(FYP)では、フォロワーがいなくても一気いっきに人気が出ることがあります。また、「デュエット」「スティッチ」「リミックス」といった機能を使えば、他の利用者と画面を分割ぶんかつして共有したり、他の利用者の動画を挿入そうにゅうしたり、加工かこうして自分の動画と組み合わせたりすることができます。利用者同士が工夫くふうして遊べるため、若者には特に人気があります。

オンラインサービスは、当初とうしょめずらしく楽しいものとして好意的こういてきに受け止められました。TikTokは、音楽、コメディ、伝統行事といったソマリアの文化を通じて、世界中に離散りさんしたソマリ人を結びつける称賛しょうさんあたいする空間でした。楽曲がっきょく「Isii Nafta」(いのちかけて君を愛する)は、TikTokを通じて世界的なヒット曲となりました。しかし、利用者が増え続けるにつれて懸念けねんも生まれてきます。TikTokの人の心をきつけてはなさない仕組みと、ソマリ人社会に深くざし、政治や社会意識の指標しひょうとなっている氏族意識とがわさると、どのような影響が出るのか、懸念けねんされているのです。

TikTokは、人々の感情をさぶる動画に焦点しょうてんを当てることで成功しています。例えば、わらいやいかり、自尊心じそんしんといった感情を刺激しげきする「おすすめ」動画を紹介し、視聴者がつい見入ったり、他の人にシェアするようにうながします。ソマリアの場合、人気が出る動画は氏族に関連するもので、それは氏族に関する話題が人々の感情を最も強くき立てるからです。利用者もその点は理解しており、調査で話を聞いた人々も、クランバトルに登場するインフルエンサーは、自身の支持を集めるために氏族間のライバル意識を意図的いとてきあおっていると話しています。TikTokで人気になるのは、より強いいかりや自尊心じそんしんを引き出す動画だと答える利用者は多いのです。

氏族主義的な動画がTikTokに偶然ぐうぜん存在するのではなく、TikTokは氏族主義の増長ぞうちょう積極的せっきょくてき寄与きよしています。TikTokは、利用者の視聴履歴しちょうりれきや自己イメージに関する情報を用いて、研究者が「アルゴリズムてきアイデンティティ」と呼ぶ、利用者ごとのデータ上の人格じんかくを生成しています。もしソマリ人が氏族に関する動画をいくつか見れば、TikTokは「その人は同じような動画をもっと見たいだろう」と判断し、その人のデータ人格じんかくに氏族主義に関する情報を付加ふかしていくのです。

オンライン上の氏族主義で最も危険視きけんしされているのは、実社会で発生している紛争ふんそうへの波及効果はきゅうこうかです。調査参加者の中には、TikTokの番組で氏族のメンバーに対して、暴力ぼうりょくさない行動を直接うったえる動画をた者もいました。多くの場合、国外に離散りさんしたインフルエンサーが、派手はで言動げんどうで政治的な呼びかけを行い、地域紛争ふんそうで勝利するための軍資金ぐんしきんつのる内容です。現在、TikTokでは氏族間紛争ふんそう、特に最近ではラスアノド紛争ふんそうに関連したハッシュタグが頻繁ひんぱんに登場しています。

また、TikTokで見聞きした偏見へんけんが学校教育にも悪影響を及ぼしており、子供たちはインターネットで知った他氏族をからかう言葉を気軽に口にするようになりました。以前であれば、公の場で他氏族を嘲笑ちょうしょうしたり侮辱ぶじょくしたりすることははばかられる行為でしたが、今の若者は気にしていないようです。ある人はきっぱりこう語ります。

「TikTokのせいで家族や親戚しんせきがバラバラになった。以前は氏族を優先ゆうせんする排他的はいたてきな行為は非難ひなんされていた。今は誰もが公然こうぜんと、同じことをしても問題ないと思っている。TikTokのクランバトルは、学校に行ったことがなくても誰でも参加できるから仕方がない。」