カザフスタンには「クルト」という伝統的でんとうてきな食べ物があります。クルトは、羊ひつじのミルクを発酵はっこうさせてから乾燥かんそうさせた、チーズのような保存食ほぞんしょくです。100年ぐらい前まで、カザフスタンの人々ひとびとは羊ひつじのミルクからバターなどの乳製品にゅうせいひんをよく作つくっていました。昔むかし、カザフスタンの遊牧民ゆうぼくみんにとって大切たいせつな家畜かちくは馬と羊ひつじでした。牛は育そだてるのが大変たいへんで、移動いどうする生活せいかつには合あわなかったからです。それに、羊ひつじのミルクは牛のミルクより栄養えいようがたくさんあります。

しかし、時代じだいが変かわると、牛を飼かう人が増ふえました。ロシアの影響えいきょうで、人々ひとびとが移動いどうしないで一ひとつの場所ばしょに住すむようになったからです。ソビエト連邦れんぽうの時代じだいには、産業さんぎょうが発達はったつし、工場こうじょうで製品せいひんをたくさん作つくることが重要じゅうようになりました。牛のミルクは工場こうじょうで扱あつかいやすかったので、次第しだいに中心ちゅうしんになりました。その結果けっか、羊ひつじは主おもに肉にくと羊毛ようもうのために飼かわれるようになり、羊ひつじのミルクはほとんど見みられなくなりました。

私わたしはクルトについての記事きじを書かいているとき、あることに気きがつきました。それは、今いまの時代じだい、羊ひつじのクルトをほとんど食たべられないということです。羊ひつじのクルトは牛のクルトより栄養えいようが高たかいと聞きいて、どうしても食たべてみたくなりました。昔むかしは文化ぶんかの中心ちゅうしんだったのに、なぜ羊ひつじのミルクが手てに入はいらないのでしょうか。私わたしは、今いまでも伝統的でんとうてきな方法ほうほうで羊ひつじのミルクをしぼっている人ひとを探さがしました。そして、ネシプハンさんとロジクルさんという年配ねんぱいの夫婦ふうふに会あうことができました。

ネシプハンさん夫婦ふうふは、今いまでも季節きせつごとに場所ばしょを移動いどうする伝統的でんとうてきな生活せいかつを続つづけています。ネシプハンさんはこの地域ちいきで尊敬そんけいされている羊飼ひつじかいです。私わたしたちが村むらを訪おとずれると、孫まごのエルザスさんが羊ひつじを上手じょうずに捕つかまえました。羊ひつじは最初さいしょいやがりましたが、すぐにおとなしくなりました。そして、ロジクルさんがミルクをしぼり始はじめます。ミルクがバケツに落おちる小ちいさな音おとだけがします。この静しずかな風景ふうけいは、長ながい時間じかんをかけて築きずかれた人ひとと動物どうぶつの信頼関係しんらいかんけいを感かんじさせました。

ミルクをしぼる時期じきは8月がつの初はじめごろです。この時期じきは、子こどもの羊ひつじを母ははの羊ひつじから離はなしても、まだミルクが出でるからです。でも、動物どうぶつを傷きずつけないように、しぼる回数かいすうをだんだん少すくなくしていきます。そして3、4週間後しゅうかんごにはミルクは自然しぜんに止とまります。これは、昔むかしから次つぎの世代せだいへと伝つたえられてきた、動物どうぶつを大切たいせつにする知恵ちえです。この伝統でんとうを守まもり続つづける家族かぞくの姿すがたは、とても印象的いんしょうてきでした。