2025年8月25日、インドの最高裁判所は、コメディアンやインフルエンサーが関わる裁判で重要な判決を下した。裁判所は、被告であるコメディアンのサマイ・ライナ氏らに対し、YouTubeの動画内での発言について、原告へ公式に謝罪するよう命じた。彼らの動画は、障害のある人々を嘲笑していると批判されていた。
この裁判では3件の訴えが審理されていた。そのうち2件は、人気ユーチューバーのランヴィール・アッラーバディア氏とアシシュ・チャンチャラニ氏が、別々の警察への被害届(FIR)に関する審理をまとめるよう求めた請願であった。彼らは、オーディション番組のパロディー「India’s Got Latent」の中で、親や性に関するジョークを言ったことで激しい非難を浴びていた。3件目は、SMA治療財団が、サマイ・ライナ氏らコメディアンに対し、救済を求めて起こした請願である。
今回の最高裁判所の命令は、このインドSMA治療財団からの請願が発端となった。同財団は、重い身体障害を引き起こす希少な遺伝性の病気である脊髄性筋萎縮症(SMA)の患者らを支援する権利擁護団体である。財団は、問題のコメディアンたちがYouTube番組の中で、SMA患者や他の障害者を嘲笑しているとして救済を求めていた。
財団は訴状の中で、SMAの治療費は莫大であり、特に乳児向けの遺伝子治療には1.6億ルピー(約181万ドル)もの費用がかかることを強調した。しかし、番組でコメディアンのサマイ・ライナ氏は、SMAの乳児を救うためのチャリティーキャンペーンについて「何かおかしなこと」が起きていると発言。子供の治療のための寄付によって母親が経済的な利益を得るかのように揶揄した。
また別の場面では、ライナ氏が視覚に障害のある出演者に対し「あなたのどちらの目を見ればいいですか?」と尋ねた。この発言は、相手が視線を合わせられないことをからかっていると受け取られた。
コメディを擁護する人々は、風刺は民主主義における重要な表現手段だと主張する。一方で、道徳や社会規範を侵して笑いを取ろうとするコメディアンを非難する声もある。誰もが気軽に視聴できるYouTubeの登場により、インドではスタンドアップ・コメディやインフルエンサーの人気が高まり、風刺をめぐる議論が過熱している。
今回の判決で裁判所は、動画や音楽、記事など、収益目的で制作されたオンラインコンテンツについて、制作者はこれまでより広い範囲で責任を負うべきであるという考えを示した。
裁判所は政府に対し、デジタルコンテンツを規制するためのガイドラインを策定するよう求めた。その際、表現の自由を守りつつ、社会的に弱い立場にある人々の尊厳を守るための舵取りが求められると述べた。さらに、プラットフォームの商業化が進むことで言論が萎縮する恐れはあるものの、発言に対する責任は変わらないとし、特に収益を目的とする活動での発言には責任が伴うことを強調した。
今回の最高裁の決定は、インド社会にとって重要な意味を持つ。コメディアンやインフルエンサーは、オンライン上でユーモアと他者を傷つけることの境界線を曖昧にしていると、しばしば非難されてきたからだ。この判決は、オンラインでの活動において、これまで以上に明確な説明責任が求められることを示した。
判決はインド憲法の枠組みにも言及した。憲法は言論の自由を保障する一方で、公の秩序や道徳、品位を守るための「合理的な制限」も認めている。裁判所は、生命と自由の保護には「社会的に弱い立場にある人々の尊厳を守る権利」も含まれるとの解釈を示した。
風刺やユーモアは保護されるべきだが、人々の尊厳を侵害する商業的なコンテンツは保護の対象外であり、規制の対象となり得るとの見解が示された。多くの人がオンラインで挑発的な動画を目にする中、この判決はコンテンツ制作者に対し、より一層の慎重さを求める警鐘を鳴らすものとなった。
インドでは、ユーモアがたびたび社会的な反発や法的な精査の対象となってきた。今回の判決も、コメディアンと言論の自由をめぐる論争の渦中から生まれたものである。
過去には、2021年にコメディアンのムナワル・ファルキ氏が宗教的な感情を侮辱した疑いで逮捕され、興行が中止に追い込まれた。また、クナル・カムラ氏は政治家への風刺的なコメントで侮辱罪の裁判に直面した。これらの事件は、司法による過剰な介入だと見る向きも多い。2015年には、コメディグループがわいせつ罪などで告発されており、風刺と社会的な許容範囲の境界線をめぐる緊張が続いている。
インドのような多様な社会では、ユーモアがささいなきっかけで文化・法的な論争に発展しやすく、表現の自由の舵取りは困難を伴う。今回の事件のように、オンラインでは多くの人々の怒りが一気に集中することもある。最高裁の判決は、過度な規制を戒め、合理的な表現の自由を保護する明確なルールの必要性を強調しつつも、焦点を「収益化されたコンテンツの説明責任」へと移した。
デジタルコンテンツを管理するインドの法的枠組みは、いまだ不十分な状態だ。既存の法律は、主にプラットフォーム事業者が通知を受けた違法コンテンツを削除する義務を定めているにすぎない。インフルエンサーによる虚偽の宣伝などは消費者保護法の規制対象だが、個々のコンテンツ制作者の表現内容を直接規制する仕組みは整っていない。
2021年の情報技術規則による規制も、主にYouTubeやNetflixのようなプラットフォーム事業者を対象としており、個々のコンテンツ制作者は対象外である。
このように断片的な法制度では、収益目的のコンテンツに対する規制に大きな法の抜け穴が生じている。最高裁判所は政府に対し、技術革新の速いデジタル時代に対応できていない現在の規制の枠組みを見直し、この欠陥を埋めるよう促した。