農業分野で創出されるカーボン・クレジット(温室効果ガスの排出削減量を取引可能な権利にしたもの)を拡大することは、気候変動対策の資金を動員し、農家を支援するとともに、インドで新たに始まった炭素市場を強化する可能性を秘めている。
世界の炭素市場はこれまで、産業部門の排出削減に焦点を当ててきた。しかし、温室効果ガス(GHG)の世界排出量で2番目に大きいとされる農業分野は、標準的な排出量取引制度の対象から外されたままである。農業分野は世界のGHG総排出量の約13%を占め、林業などを含めると約25%に達する。インドのように国民の多くが農業に依存する国にとって、農業の変革は生活向上に直結する重要な課題だ。
したがって、メタン排出削減や土壌管理の改善といった持続可能な農法から生まれる質の高いカーボン・クレジットに農業を統合することは、気候変動対策の資金を動員すると同時に、農家や農村経済を支えることにつながる。
インドは2023年、カーボン・クレジット取引制度(CCTS)の下でインド炭素市場(ICM)を立ち上げた。この市場は、排出削減を義務付ける「コンプライアンス市場」と、自主的な削減分を取引する「オフセット市場」で構成される。当初、農業は対象外だったが、新たに設けられたオフセット市場が、農業分野の排出削減プロジェクトへの道を開いた。
インド政府のエネルギー効率局(BEE)はすでに、家畜からのメタン回収や排泄物管理に関する方法論をオフセット市場向けに承認している。何億人もの生活が農業に関わるインドにとって、農業は炭素市場の次なる主要な開拓分野となりうる。持続可能な農法、土壌管理の改善、アグロフォレストリー(森林農業)などを通じて、農業活動をさらに統合していく大きな余地が残されているのだ。
強固な農業炭素市場の枠組みは、持続可能な農業への移行を支援するだけでなく、インドがカーボン・クレジットの重要な供給源となり、世界市場における立場を強化することにもつながるだろう。海外では、ブラジルやケニアで政策支援を通じた成功事例があり、資金や技術、信頼できる炭素会計が連携すれば、排出削減と農家への具体的な利益を両立できることが示されている。
インドには、世界最大規模の有機農業生産者という強みがある。有機農法や持続可能な農法は、化学肥料の使用に伴う排出を削減し、土壌の炭素貯留量を増やす可能性があるため、炭素市場にとって重要な機会となる。
ただし、有機認証そのものが自動的にカーボン・クレジットになるわけではない。気候変動への貢献は、承認された方法論に基づき、ベースライン(排出量の基準値)を定め、追加性(プロジェクトがなければ削減が実現しなかったこと)を証明し、信頼性の高いMRV(測定・報告・検証)システムを通じて客観的に示されなければならない。
インドは、農業セクター全体を一度に市場へ統合するのではなく、認証された有機農家など、組織化され追跡可能な農家グループから段階的に始めるのが現実的だ。また、個々の小規模農家が監視や認証にかかる高いコストを負担するのは難しいため、農家生産者組織(FPO)や協同組合が農家をまとめ、大規模なプロジェクトとして取り組む「集約」が鍵となる。
今後の実用的な枠組みとしては、以下の4つの取り組みが考えられる。
1. 方法論の標準化:土壌炭素や稲作メタン削減など、農業における排出削減のための方法論を開発する。
2. デジタルMRV:リモートセンシングなどを活用し、信頼性を保ちながら監視コストを削減する。
3. FPOによる集約:FPOなどを通じて小規模農家をまとめ、収益を透明に分配する。
4. ブレンド・ファイナンス:炭素市場の収益を既存の農業融資などと組み合わせ、農家を支援する。
インドの農業セクターは、気候変動という課題であると同時に、炭素市場における大きな機会でもある。目指すべきは、単にクレジットの量を最大化することではなく、信頼性が高く、農家を中心とした市場を構築することだ。CCTSオフセット・メカニズムという第一歩を踏み出した今、この仕組みを拡大し、インド炭素市場の中に、信頼性と拡張性を備えた農家中心の農業炭素エコシステムを築き上げることが次の段階となる。
出典: Devpriya Sarkar / 360info(with 360info、CC BY 4.0)