この記事は、グローバル・ボイスの特集シリーズ「世界の危機、地域の解決策」の一環として、気候変動に対する地域社会の取り組みを紹介するものである。

シリアの首都ダマスカス郊外にあるジャラマナ地区。都会の喧騒けんそうから離れたその一角の小さな畑が、国の農業の未来を担う「在来種子ざいらいしゅし」を再生させるための重要な拠点に変わろうとしている。ここでは2026年3月から「ジャラマナ連帯の畑」と名付けられたプロジェクトが開始された。運営団体や農業を愛する人々が協力し、土地を耕たがやし、種をまいている。その目的は、長年の紛争ふんそうと経済の悪化あっかにより姿すがたを消けしつつあった、シリア固有の穀物こくもつを復活ふっかつさせることである。

「ジャラマナ連帯の畑」は、より大きな「連帯の畑と尊厳そんげん」プロジェクトの一部である。このプロジェクトはシリア各地で農業を支援し、人々と土地との絆きずなを取り戻すことを目指している。「自分たちが食べるものは自分たちで作り、収穫したものは必要な人々と分かち合う」という理念のもと、地域社会を支え、新しい協働きょうどうの形を創造しようとしているのだ。気候変動が農業に深刻な影響を与える現代において、その重要性はますます高まっている。

この取り組みのコーディネーターであり芸術家でもあるムハンナド・ディーブ氏は、プロジェクトの成り立ちをこう語る。「この畑は、『仕事と芸術』と『連帯の畑と尊厳』という二つの構想が出会って生まれた。『連帯の畑と尊厳』は2025年にシリアで設立されたが、もともとはギリシャの『連帯の畑』から始まったものである」。

ギリシャの「連帯の畑」は、シリア難民なんみんのスレイマン・ダクドック氏らが始めたプロジェクトだ。初めはわずかな土地と数頭の家畜しかいなかったが、やがて15ヘクタール以上の規模に拡大し、難民コミュニティ全体の生活を支えるまでになった。この取り組みは自給自足じきゅうじそくの考えに基づいており、住居や畑、家禽類かきんるいの飼育、さらには収穫した作物を加工・販売する仕組みまで作り上げた。

一方、2008年に設立された「仕事と芸術」は、芸術や文化を通じてより良い社会を創造することを目指す開発プロジェクトである。この二つの団体の理念と目的が一致し、「ジャラマナ連帯の畑」が誕生した。2026年3月、シリア側のコーディネーターであるダクドック氏との連携が実現し、畑での活動が本格的に始まった。この経験を共有するため、関心を持つ農家やボランティア、友人たちに参加が呼びかけられている。

在来種子は、農家にとって農業の基盤きばんとなる最も基本的な資源である。国連食糧農業機関こくれんしょくりょうのうぎょうきかん(FAO)によると、地域で流通する種子の8〜9割は、このような在来種子が占めることもあるという。在来種子を安定して確保かくほすることは、食料援助への依存いぞんを減らすことにもつながる。

地元で育まれてきた種子は、その土地の気候に適応しており、豊かな遺伝的多様性いでんてきたようせいを持つ。そのため、病害びょうがいへの抵抗力ていこうりょくが強く、気候変動にも対応しやすいという利点がある。農家は種を自家採取じかさいしゅしたり、友人や近所の人と交換したり、地域の市場で手に入れることで、このシステムを支えてきた。

ディーブ氏は、このプロジェクトの核心は「多様な農業経験を分かち合うこと」だと語る。プロジェクトで使われる種子の多くは、各家庭の菜園で大切に育てられてきたものだという。「ほとんどの人が家庭で野菜を育てているので、そこから種子を得ている」と彼は付け加えた。

プロジェクトの最初の段階は、種を植えて苗木なえぎを育てることだ。約75エーカーの畑で育てられた苗木は、作業の終了後、この活動を将来にわたって継続できるよう、関係者に分配ぶんぱいされる計画である。

種子は人間の食料の源であり、長い年月をかけて品種改良され、その土地に最も適したものが選び抜かれてきた。FAOは、農家が良い種子を手に入れられるかどうかが食料安全保障の鍵かぎであると強調する。特に、戦争や災害からの復興期において、地域の種子を供給するプロジェクトは極めて重要なのである。

2011年から続いたシリア内戦は、国の農業に壊滅的な被害を与えた。農村の人口は半減し、農作物や家畜の生産は激減した。灌漑かんがい設備は破壊され、広大な農地が荒廃こうはいした。さらに、種子や肥料の価格は高騰こうとうし、農家は輸入された品種に頼らざるを得なくなった。多くの農民は、命は助かっても、何世代にもわたって守ってきた土地や種子の備蓄びちくを失ってしまったのである。

ディーブ氏は、干かんばつや紛争ふんそうを経験した今だからこそ、この取り組みは特に重要だと考えている。「この方法を受け入れる農家が増えれば、在来種子を育てる地域が広がり、化学肥料などを使わないことで生産コストも下げられる」。

彼は、このプロジェクトがシリアの農業に持続的な変化をもたらす可能性があると信じている。「多くの農家は経験に頼りがちだが、この取り組みの成果が示されれば、より広い地域に良い影響を与え、活動がさらに拡大していく可能性がある」。

シリアの農業が多くの困難に直面する中で、在来種子による農業生産は、持続可能な農業経営を実現し、人々と土地とのつながりを取り戻すための重要な一歩である。それは、気候危機と政治的危機の両方に立ち向かうための、希望に満ちた挑戦である。