この記事は SciDev.Net の報道(CC BY 2.0)をもとにした日本語訳です。
インドのある60歳の農夫が、2つの感染症を発症した。1つは牛にひづめで踏まれた足、もう1つはその3年後に畑でトゲが刺さった臀部だった。
コルカタの医学研究所での検査の結果、原因は土壌に生息する2種類の異なる真菌であることが判明した。しかし、どちらも同じ「マイセトーマ(菌腫)」という病気を引き起こしていた。
マイセトーマは「足菌腫(マズラフット)」としても知られ、世界保健機関(WHO)が指定する「顧みられない熱帯病(NTD)」の一つだ。主に低・中所得国の農業従事者や牧畜民に発症する。土壌や植物に存在する細菌や真菌が、刺し傷や切り傷から皮膚の下の組織に侵入することで感染する。多くは些細な傷から始まり、徐々に組織や骨を破壊していく。
2021年の研究で報告されたこの症例は、一人の患者が同時に複数のマイセトーマを発症するという珍しいケースだった。これは、科学者たちが今なお解明しようとしている謎、すなわち「環境中の病原体との接触から、いかにして病気の発症に至るのか」という問いへの手がかりを与えてくれる。
インド北西部ラジャスタン州のケタサール村に住む農夫、バブラム・ビシュノイさん(65)は、何十年もの間、裸足でバジュラ(トウジンビエ)や小麦の畑を耕してきた。その過程で彼の皮膚は、土壌に潜む細菌や真菌に常にさらされていた。そしてある時、彼はマイセトーマに感染した。
数年前に右足にできた小さな粒は、次第にひどい腫れと浸出液を伴う症状へと悪化し、雨季になるたびに状態は深刻になった。「雨が降ると、皮膚がむけ始めるのです」とビシュノイさんは語る。農作業中に雨水が右足に染み込み、決まって炎症が悪化したことを彼は記憶している。
インドが「国家ワンヘルス・ミッション(NOHM)」の策定を進める中、こうした症例への注目が高まっている。ワンヘルスとは、人と動物、そして環境の健康を一体的に捉え、分野横断で課題解決を目指すアプローチであり、このミッションはそれに基づいた疾病監視体制の統合を目的としている。
マイセトーマは、植物のトゲや土壌に存在する病原体によって引き起こされるにもかかわらず、現在、インドには全国的な監視システムが存在しない。WHOも、この病気に対する公的な監視システムは存在しないと指摘している。農業従事者が直面するリスクに対処するためには、病原体が生息する生態系を把握することが不可欠だが、そのための基本的な情報が欠けているのだ。
国際人獣真菌学会の元会長であるアルナロケ・チャクラバルティ氏は、「マイセトーマは本質的に環境病であり、乾燥、気温、そして人々の行動様式といった要因が有病率に影響します。気候変動によって環境条件が変化する中、それが病気の発生地域にどう影響するかを理解する必要があります」と指摘する。
この病気は1842年にはインドで記録が確認されているが、いまだに多くの謎が残っている。スーダンにあるWHOマイセトーマ共同研究センターの創設者であるアフメド・ファハル氏は、「なぜ病原体に接触した全ての人が発症するわけではないのか。なぜ多くの患者に外傷(刺し傷や切り傷)の経験がないのか。感染は正確にどのようにして起こるのか」といった疑問点を挙げる。
専門家たちは、人、動物、環境の健康を統合するワンヘルス・アプローチこそが、マイセトーマを取り巻く広範な生態学的・社会的要因に対処し、持続可能な管理戦略を支える鍵になると考えている。
マイセトーマには、細菌が原因の「放線菌腫」と、真菌が原因の「真菌性マイセトーマ」の2種類がある。どちらも症状は似ており、組織の腫れ、膿や顆粒状の物質を排出する瘻孔が特徴だ。特に真菌性マイセトーマは、抗真菌薬が患部に浸透しにくく、治療が困難とされる。進行すると切断に至ることもあり、重症例では死に至ることもある。
感染タイプは気候と関連があり、真菌性はスーダンやインド北部のような乾燥地域で、細菌性はメキシコのような湿度の高い熱帯地域で多く見られる。この傾向はインド国内でも顕著で、ラジャスタン州では真菌性の報告が、他の湿潤な州では細菌性の報告が多い。
しかし近年、気候変動や灌漑などの人為的介入により、この地理的な境界線は曖昧になりつつある。ラジャスタン州のタール砂漠では、灌漑により乾燥地帯が農地に変わった結果、真菌性と細菌性の症例比率が2001年の4対1から2005年には2対1未満へと急激に変化したという研究報告もある。
ジョードプルのS.N.医科大学のヨギ・ラージ・ジョシ医師は、自身の病院での症例に基づき、ラジャスタン州西部では気候の湿潤化に伴い、真菌性と細菌性の比率が2010年以前の3対1から、現在では3対2に近づいている可能性があると推測する。
他の流行国と異なり、インドではマイセトーマ病原体に関する現場での研究は限られている。インド政府が2024年2月に承認したNOHMは、16以上の省庁や部局が連携する壮大な計画だが、NTD、特にマイセトーマはその主要な対象とはなっていないようだ。
なぜ特定の個人だけが発症するのか。この問いに答えるため、研究者たちは「エクスポソーム」という概念に注目している。これは、人が生涯にわたって受ける環境や生活習慣からの曝露の総体を指し、それが健康にどう影響するかを包括的に分析する考え方だ。ビシュノイさんのように、診断が遅れ、治療の開始が遅れるケースも少なくない。ジョシ医師は「マイセトーマの原因菌は非常に強靭で、過酷な環境でも生き延び、宿主の体内に入ってから活動を再開することができます」と語る。
スーダンでの研究では、患者の家の土壌や動物の糞、泥壁から原因菌が発見されており、これらが感染源となっている可能性が示唆されている。また、馬や牛、犬といった動物での感染も報告されており、人獣共通の側面からの監視も求められている。
専門家たちは、臨床医、疫学者、環境専門家などが連携する、マイセトーマに特化した包括的なワンヘルス監視システムの構築を訴える。チャクラバルティ氏は、「この病気は社会から取り残された人々に影響を与えます。政府が優先課題として取り組まない限り、その真の影響は見えないままです。スーダンのように、インドにも専門の研究機関が必要です」と強く主張している。