オーストラリアでH5N1型鳥インフルエンザが発生し、特に野生動物への深刻しんこくな影響が懸念けねんされています。世界の他の地域ではここ数年、鳥インフルエンザの脅威きょういにさらされてきましたが、オーストラリアでは2024年5月までは発生が確認されていませんでした。

多くの野鳥がこのウイルスによって死んでいるという報告を受け、政府は対策に乗り出し、ワクチン接種せっしゅキャンペーンの実施を決定しました。その中でも特に優先すべき対象とされているのが、ビクトリア州のセントキルダやフィリップ島に生息せいそくするコガタペンギンの大規模だいきぼな繁殖地はんしょくち(コロニー)です。

ウェスタンシドニー大学で生物学などを教えるジュリー・オールド准教授じゅんきょうじゅは、専門誌『The Conversation』の記事で、ワクチン接種せっしゅの方法について次のように説明しています。

「野生動物を捕獲ほかくしてワクチンを接種せっしゅすることは極きわめて困難こんなんです。特に鳥インフルエンザのワクチンは2回の接種せっしゅが必要なため、動物を2度捕獲ほかくしなければなりません。しかし、コガタペンギンは飛ぶことができず、集団しゅうだんで生活し、夜には同じ巣穴に戻る習性しゅうせいがあります。そのため、他の野生動物に比べて捕獲ほかくして接種せっしゅすることが比較的容易よういなのです。」

ビクトリア州の多くの住民はこの知らせを好意的こういてきに受け止めましたが、SNS上ではワクチン接種せっしゅに反対する意見もすぐに現れました。

地元選出のジョン・バーンズ下院議員かいんぎいんは、セントキルダのペンギンについて、自身のインスタグラムに次のように投稿しました。

「地域の多くの皆さんが、鳥インフルエンザの発生と、それがコガタペンギンに与える影響を心配しています。

ニナ・テイラー議員とビクトリア州政府と協力し、セントキルダとフィリップ島にいる5000羽以上のコガタペンギンにワクチンを接種せっしゅする計画を立てました。これは、世界的に見ても大規模だいきぼな野鳥へのワクチン接種せっしゅ計画と考えられます。すでに1回目の接種せっしゅが始まっています。

今のところ、オーストラリアのコガタペンギンから鳥インフルエンザの感染例は出ていません。この取り組みは、その安全な状態を維持いじするためのものです。

ペンギンたちの存在がこの地域を特別な場所にしています。彼らと私たちがこの場所を共有できることは、素晴らしいことです。」

フェイスブックに転載てんさいされたこの投稿には、3000件の「いいね」と2000件のコメントが付きました。予想された通り、その多くはワクチン接種せっしゅに反対する意見や、議員への誹謗中傷ひぼうちゅうしょうでした。例えば、「これでペンギンは絶滅ぜつめつするだろう」「金儲けのために今度は野生動物に手を出すのか」「また陰謀論者いんぼうろんしゃ(クッカー)たちが騒ぎ出すぞ」といった内容のコメントが見られました。

「クッカーペディア」は、新型コロナウイルスの流行りゅうこう時に活動が盛んだったオーストラリアのウェブサイトで、「クッカー」と呼ばれる人々の活動を記録していました。オーストラリアのスラングである「クッカー」とは、大小さまざまな陰謀論いんぼうろんを信じる人々を指す言葉です。オーストラリア国立辞書センターのマーク・グイン氏は、この言葉がオーストラリア特有とくゆうの表現になった経緯けいいを次のように説明しています。

「私たちはこの言葉を『Australian National Dictionary』に加える準備をしています。今のところ、この言葉はオーストラリアで生まれ、オーストラリア国内だけで使われていると考えています。確認されている最も古い使用例は2021年のコロナ禍かで、ワクチン接種せっしゅの義務化やロックダウンに反対する人々を軽蔑的けいべつてきに指す言葉として使われました。その後、意味が広がり、さまざまな問題に反対する人々全般を指すようになりました。『陰謀論者いんぼうろんしゃ』と同義どうぎで使われることもあります。

比較的新しい言葉なので、私たちは今もその使われ方を監視かんししていますが、議会での議論を含め、すでに一般の言説げんせつにも浸透しんとうしています。」