クリーンエネルギーの発電量は過去最高を記録し、国民からの支持も高い。しかし、政治的な抵抗や分断を煽あおるようなメディアの報道、そして地域社会の不信感ふしんかんが、その進展を脅おびやかしている。

数週間前の記録的な土曜日の午後、オーストラリアの主要電力網では、太陽光と風力による発電が全需要の80.4%を賄まかなった。これを後押あとおししているのが、各家庭での太陽光発電システムや蓄電池ちくでんちの導入だ。ある年の上半期には、屋上太陽光発電システムの設置数が前年同期比で35%、蓄電池ちくでんちは52%も増加するなど、エネルギー転換は着実ちゃくじつに進んでいる。

しかし、こうした成功の裏で、エネルギー転換への抵抗があるという見方が広まっている。特に、誤あやまった情報(偽情報ぎじょうほう)の拡散が問題視されている。オーストラリアで広く見られるこの偽情報ぎじょうほうは、気候変動対策や再生可能エネルギーの導入を遅らせることで利益を得る既得権益団体きとくけんえきだんたいとの関連が指摘されており、主にソーシャルメディアを通じて拡散されている。

こうした社会の空気を政治家が利用する動きもある。保守連合ほしゅれんごうは連邦れんぽうや各州で、再生可能エネルギー関連プロジェクトへの支援を縮小する政策を発表した。ワンネーション党など一部の政党はさらに踏ふみ込こみ、石炭火力発電所の存続そんぞく、再生可能エネルギーの重点開発区域(Renewable Energy Zones)の廃止、洋上風力発電ようじょうふうりょくはつでんの中止、ビクトリア州が掲かかげる温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)目標の撤回てっかいなどを主張している。

オーストラリアは再生可能エネルギーへの転換を世界的にリードしている。それにもかかわらず、一部の政党はなぜ反再エネともとれるキャンペーンを行おこなうのだろうか。この矛盾むじゅんの背景には何があるのか。

再生可能エネルギーに対する社会の支持は、単純なものではない。地域、支持層しじそう、技術の種類によって異ことなり、信頼の問題、手続きの公正さ、情報の正確性、経済的な影響、さらには地政学的ちせいがくてきな要因までが複雑に絡からみ合あっている。

2018年のLowy Instituteの世論調査よろんちょうさによれば、地方在住者の81%が「インフラ投資が増えても、政府は再生可能エネルギーを優先すべきだ」と回答していた。しかしその一方で、再エネに対する根強ねづよい不信感ふしんかんも存在する。クリーンエネルギー評議会ひょうぎかいのジャッキー・トラッドCEOは、「この業界の根本的こんぽんてきな問題は信頼です。特に開発が進む地方や農村部のうそんぶで、地域からの信頼が十分に得られていない」と指摘する。

ある産業が地域社会に受け入れられるためには、信頼関係の構築が不可欠ふかけつだと広く認識されている。再エネ施設の建設が進む地方のコミュニティは、「自分たちの意見が反映されないままエネルギー転換が進められている」という正当せいとうな懸念けねんを抱いだいている。その懸念けねんは、地域の将来を自分たちで決める権利がないことへの不満から、再エネ施設による農地の価値低下かちていかといった具体的な問題にまで及およぶ。

ニューサウスウェールズ州で行おこなわれた調査では、地域住民から「政府は、一貫性いっかんせいも実効性じっこうせいもない計画のまま、トップダウンで再エネ重点開発区域の導入を進めた」との声が上がった。このような認識が、再エネに反対するグループによる深刻な不信感ふしんかんの土壌どじょうとなっている。これは、政府機関や都市部の事業者主導じぎょうしゃしゅどうで進められるプロジェクトや政策全般に対する、より根深ねぶかい不信感ふしんかんの表あらわれでもある。

そのため、地域社会の再エネ産業や関連政策への信頼を回復することが、対立を建設的けんせつてきに解決し、必要なスピードでエネルギー転換を継続していくための鍵かぎであると認識されている。

再エネへの移行は、偽情報ぎじょうほうやソーシャルメディアが人々の認識を大きく左右さゆうする、メディア環境の変化の中で起きている。感情に訴うったえかける否定的なニュースは注目を集めやすいため、メディアは再エネに対するネガティブな側面を報じる傾向がある。特定のプロジェクトや地域での反対運動は存在するものの、再エネ重点開発区域における大多数の住民からの支持や、クリーンエネルギーへの転換がもたらす恩恵おんけいを歓迎している町の様子が十分に報道されることは少ない。

地方で広まる偽情報ぎじょうほうには、他にも「再エネ施設が州の土地の大部分を占しめてしまう」といったものがある。しかし、ある研究によれば、ネットゼロを達成するために必要な国土面積の割合は、オーストラリアはG20諸国の中で最も低いと試算しさんされている。

2024年のIpsosの世論調査よろんちょうさでは、「再エネへの移行は家庭の電気料金を値上げさせる」という偽情報ぎじょうほうが最も信じられやすいとされ、回答者の68%が「信憑性しんぴょうせいがある」と答えた。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、蓄電池ちくでんちを併用へいようした太陽光や風力発電が最も安価あんかな電源であると繰り返し報告している。しかし、天然ガス価格や老朽化ろうきゅうかした石炭火力発電所の維持コストなどの影響で、そのコスト削減効果が一般家庭の電気料金に反映されていないのが現状だ。屋上太陽光パネルを持たない家庭では電気料金の高騰こうとうが家計を圧迫あっぱくしており、その結果、気候変動対策に対してより緩ゆるやかで、負担の少ないアプローチを求める声が強まっている。

このような認識のずれの背景には、「声高こわだかな反対派」と「物言ものいわぬ支持者」という構図こうずがある。メディアや政治の場では対立が強調されがちで、これが問題をさらに大きく見せている。一部の地域では、再エネ施設を受け入れた農家や事業の支持者が、報復ほうふくを恐おそれて声を上げられない状況にある。実際に意見を表明した人が、嫌いやがらせや脅迫きょうはくを受けたり、地域社会から孤立こりつさせられたりするケースも報告されている。

偽情報ぎじょうほうに対処するには多角的たかくてきな取とり組くみが求められる。そして、そのためには行政機関などへの信頼回復が不可欠ふかけつであり、情報の透明性や正確性を確保し、誰もが情報にアクセスしやすくすることが重要となる。

この一世代に一度の大きな社会システムの変革は、物価高、地政学的ちせいがくてきな緊張、メディア環境の激変げきへん、そして公的機関こうてききかんへの信頼低下といった課題が山積さんせきする時代に進められている。オーストラリア国民の大多数は今もエネルギー転換を支持しているが、その支持を維持・拡大していくためには、社会全体で一貫した行動を取ることが不可欠ふかけつだ。

信頼性が低下している化石燃料かせきねんりょうへの依存から早期に脱却だっきゃくし、すべての国民が家庭の電化による恩恵おんけいを受けられるようになれば、エネルギー価格高騰こうとうの問題も早期に緩和かんわされるだろう。

出典: Elianor Gerrard / 360info(with 360info、CC BY 4.0)