この記事は SciDev.Net の報道(CC BY 2.0)をもとにした日本語訳です。

タンザニアの病院では、患者ケアや業務連携、効率の向上を目的とした電子カルテの導入が一般的になっている。しかし、研究者らは、従来の紙の記録との二重管理が、医療従事者の貴重な時間を奪い、情報の正確性を損そこなう可能性があると警鐘けいしょうを鳴ならしている。

ムヒンビリ健康科学大学(MUHAS)とドドマ大学の研究者らによる調査で、信頼性の低いインフラ、システムの不具合ふぐあい、そして組織的な制約せいやくが、国内の医療記録の完全なデジタル化への移行いこうを遅らせていることが明らかになった。

研究チームは、タンザニアのプライマリ・ヘルスケア施設が紙の記録を廃止はいしし、完全にデジタル化するためには、継続的な研修、より良いインフラ、そして強力な組織的支援が必要であると指摘する。

この研究は学術誌がくじゅつし「レコード・マネジメント・ジャーナル」に掲載された。タンザニアのイリンガ都市部とマニョニ地区にある6つの医療施設で働く医療従事者41人を対象に、電子カルテの使用状況を調査したものである。

研究チームは、タンザニア政府の病院管理情報システム(GoT-HoMIS)の実際の運用状況を、コンピューターや電力、インターネット接続へのアクセス状況を含めて評価。国のデジタルヘルス政策と照てらし合あわせながら、医療従事者が直面ちょくめんする課題を分析した。

論文の筆頭著者ひっとうちょしゃであり、ドドマ大学情報システム・技術学部の講師でもあるジョセフ・マカランガ氏は、課題の一つとして、医療従事者がデジタルシステムの進化に対応できるスキルを維持することの難しさを挙げる。「医療従事者は能力向上のための研修を受けていますが、それらは短期的なものです」と、同氏は語る。

「また、デジタルシステムは随時ずいじアップグレードされるため、スキルの更新が求められます。加えて、研修が必要な新人職員もいます。こうした状況がスキルギャップを生んでいるのです」。

マカランガ氏は、医療従事者を養成ようせいする教育機関のカリキュラムにデジタルヘルスに関する内容を盛もり込こむべきだと考えている。さらに、政策立案者せいさくりつあんしゃに対し、デジタルシステムへの移行いこうを完了させ、全医療施設で紙の記録を廃止はいしするための明確な期限を設定するよう求めた。

研究によれば、電子カルテを導入したからといって、その医療施設が完全にデジタルな業務プロセスに移行いこうしたとは限らない。紙媒体ばいたいからの移行いこうには、安定した電力供給、正常に機能するハードウェア、インターネット接続、訓練された使用者、そして継続的な技術サポートが不可欠ふかけつだ。

マカランガ氏は、紙と電子の両方で記録を管理し続けることは、医療スタッフの業務負担ぎょうむふたんを増大ぞうだいさせ、医療データ全体の品質に悪影響あくえいきょうを及およぼす可能性があると警告する。

実際に調査対象となった6つの施設では、報告された課題の半数以上が、不安定なネットワーク接続、停電、不十分なハードウェア、システムの不具合ふぐあいといった技術的な問題だった。組織的な制約せいやくが約3分の1を占め、スタッフの能力不足も多く見られた。

電子システムが利用できない場合や、既存の手順で物理的ぶつりてきな文書が求められる場合には、依然として紙の記録が必要となることもある。しかし、マカランガ氏は、このような並行へいこうシステムを維持することがスタッフの業務負担ぎょうむふたんを増やし、医療データ全体の品質を脅おびやかすと重かさねて指摘する。

論文の共著者きょうちょしゃであり、MUHASでデジタルヘルスを専門とする上級講師兼研究者のフェリックス・スクムス氏は、この研究が、資源しげんに制約せいやくのある環境において、紙と電子のハイブリッドシステムからペーパーレスな医療記録へと移行いこうする際の課題について、具体的な証拠を提供するものだと述べている。同氏は、この研究が「現地の状況に即そくした証拠」を示しており、タンザニアのプライマリ・ヘルスケアサービスへのデジタルシステム統合に関する政策や実践に、有益ゆうえきな情報をもたらす可能性があると語る。

11の加盟国かめいこくからなる地域機関「東・中央・南アフリカ保健共同体」でシニアシステムエンジニアを務めるティモシー・アエバレ氏は、今回の研究結果が、自身がサハラ以南いなんのアフリカ全域で見てきたより広範こうはんな課題を反映していると話す。「テクノロジーを構築すること自体は、比較的簡単な部分であることが多いのです。より大きな挑戦は、その技術が真に医療提供のあり方を変革へんかくできるような環境を整ととのえることです」。

アエバレ氏は、ルワンダやザンビアなどでのデジタルヘルス・インフラ構築の経験から、医療施設が高度なデジタルシステムを導入しても、通信環境、インフラ、デジタルスキル、技術サポート、そして組織的なプロセスが同じペースで進歩しなければ、結局は紙の記録に依存いそんし続つづけることになると指摘する。「医療従事者が紙に頼たより続つづけ、時には同じ作業を二度行うことになっているのであれば、私たちの次の投資はソフトウェア導入にとどまらず、デジタルヘルス・エコシステム全体を強化するものに向けられなければなりません」と、アエバレ氏は付け加えた。

同氏は、デジタルヘルスに関する計画は、単に導入されたシステムの数で評価されるべきではなく、医療従事者の負担ふたんを軽減けいげんし、データの質と活用を向上させ、そして医療提供そのものを改善したかどうかによって判断されるべきだと強調した。

研究チームは、今回の調査が6つの施設のみを対象としているため、その結果がタンザニア全体の状況を反映しているかどうかを判断するには、さらなる研究が必要であると注意を促うながしている。